共謀罪の危うさ 誰もが「犯罪集団」に
共謀罪法案について、自民、公明両党は18日の衆院本会議で、野党の反対を押し切ってでも採決を強行する構えですが、拙速な採決は決して許されません。共謀罪法案の危険性を理解するのに役立つ記事を紹介します。
誰もが「犯罪集団」に
共謀罪法案について、菅義偉官房長官は「一般市民は対象にならない」と繰り返しているが、関東学院大の足立昌勝名誉教授(刑事法)は「われわれはみんな一般市民。だが、色メガネでみている政府から、政府に歯向かえば犯罪者とみなされかねないということ」と警告する。足立氏は共謀罪が対象とする著作権侵害を例に挙げる。「書籍のコピー、BGMの使用やダウンロードなどは、違法でも知らずにしてしまいがち。複数の人が関われば、犯罪集団と決め付けられかねない」
強引な令状請求さらに
推進派は捜索や逮捕令状などの発付は裁判所が判断するため、当局の恣意的運用は防げるとも強調する。
だが、村井敏邦・一橋大名誉教授(刑事法)は「残念ながら、日本の裁判所は令状主義の機能を果たしていない」と話す。「衛星利用測位システム(GPS)や盗聴による捜査でも、令状の大半は出ている。捜査当局が『下見をしていた。あやしい』と令状を求めた際、裁判所に下見か、散歩かを判断する材料はなく、申請却下しづらい」
そもそも当局は共謀罪の公判維持を重要視しておらず、乱用の可能性は高いという。村井氏は、「犯罪の実行前に組織を解明し、切り崩すことが狙い。共謀罪容疑で捜索できることなどが重要だ。捜査当局が『問題がある』と判断しさえすれば、従前よりも強引な令状請求が予想される」とみる。
デスクメモ 共謀罪法案での「一般人」問題。確かなのは、一般人か否かはお上の判断次第ということだ。だから、法案が成立すれば、皆、一般人になろうとするだろう。お上の望む一般人とは森友問題なんかに関心を持たない人。支持率を振りかざし、質問を封殺した先日の国会運営がその証左だ。(牧)
(北陸中日4月15日付)
時代の向かう先、本質の見極めを 半藤 一利(作家)
歴史の研究をしてきた経験から言えるのは、戦争をする国家は必ず反戦を訴える人物を押さえつけようとするということだ。昔は治安維持法が使われたが、今は「共謀罪」がそれに取って代わろうとしている。内心の自由を侵害するという点ではよく似ている。
治安維持法は、1925年の施行時、国体の変革を図る共産主義者らを取り締まる明確な狙いがあった。その後の2度の改正で適用対象が拡大され、広く検挙できるようになった。政府は、今回の法案の対象について「『組織的犯罪集団』に限る」「一般の人は関係ない」と説明しているが、将来の法改正によってどうなるかわからない。
私に言わせると、安倍政権は憲法を空洞化し、「戦争できる国」をめざしている。今回の法案は(2013年成立の)特定秘密保護法や、(15年成立の)安全保障法制などと同じ流れにあると捉えるべきだ。
「今と昔とでは時代が違う」という人もいるが、私はそうは思わない。戦前の日本はずっと暗い時代だったと思い込んでいる若い人もいるが、太平洋戦争が始まる数年前までは明るかった。日中戦争での勝利を提灯行列で祝い、社会全体が高揚感に包まれていた。それが窮屈になるのは、あっという間だった。その時代を生きている人は案外、世の中がどの方向に向かっているのかを見極めるのが難しいものだ。
法案が複雑な上、メディアによって「共謀罪」「テロ等準備罪」など様々な呼び方があり、一般の人は理解が難しいだろう。でも、その本質をしっかり見つめてほしい。100年先まで禍根を残すことがあってはならない。(『朝日新聞』2017年4月20日)
半藤 一利(はんどう かずとし 1930年(昭和5年)生まれ)は、日本の作家、随筆家。近現代史、特に昭和史に関し人物論・史論を、対談・座談も含め多く刊行している。『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞を受賞。義祖父夏目漱石